「ぽん多本家」に行くと、背筋が伸びる。心が真っ直ぐになり、健やかな気分になる。
上野とんかつ御三家の一つとして、名を馳せたが、方や極めて優れた洋食料理に出会うことができる店である。
完成まで3週間かかるというシチューは、肉がほろりと崩れて、甘い滋味が溢れ出す。その滋味と酸味や甘み、うま味が丸く溶け込んだソースが、舌をなめらかに包み込む。
陶然となる恍惚がそこにはある。しかも圧倒的なうまさながら、わざとらしさがなく、自然な味わいの中に、毅然たる気品を漂わせている。
この気品は、明治37年宮内庁料理人から転身した初代が作り上げた味である。古き良き時代の、手間ひまを惜しまぬ仕事が生んだ、品格である。
キスフライは、口の中ではらはらと、身が、花びらのように口の中で崩れて、衣の香ばしさとキスの甘みが渾然となり、笑顔を呼ぶ。
穴子や小柱、海老のフライ、鮑のバター炒めもしかり。高級天ぷら屋と肩を並べる質の魚介を、注文後にさばき、料理に仕立てる。
先日京都の割烹のご主人が、「あの値段でよくやられている」と驚かれていたほどである。
さらにはご飯、味噌汁、自家製の沢庵を始めとした脇役陣も、一点の曇りなく、日本食としての真っ当を貫いた品があって、清々しい。
清潔な店内。的確なサービス、四代目を支える、弟さんや番頭さんの仕事ぶり。挨拶の言葉に込められた誠意。東京が誇るべき、日本の誠実な食堂の姿がここにある。